叔父のコラム「自己啓発」

私の尊敬する叔父から貰ったコラムを。
これから金曜日はお届けするつもり。
経営者だった叔父が幹部向けに記した約20年前のコラムである。日本が成長から停滞に嵌りデフレに突入した時代である。

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自己啓発


 日本的経営は、大きな曲がり角に来たようである。その一つに企業内教育がある。従来の日本企業の教育は、OJT(On the Job Training)即ち職場の実地体験を通じた職能訓練は別として、主として会社主導のお仕着せの教育が行われるのが普通であった。特に大企業では精緻な教育体系のもと、社員はそのスケジュールに沿って教育されてきた。今までの環境下ではこの教育システムが大きな成果を挙げてきたことは否定できない。一方的な右上がりの市場において、年功序列・終身雇用という雇用制度の中で、毎年大量の新卒社員を採用し、いわば人材純血主義を守ってきた企業にとっては、会社共同体なる組織に社員をはめ込んでいく画一的教育システムが、必要であり好ましいものであったのだ。
しかし環境は大きく変わろうとしている。市場は成熟化し競争は激化している。また市場は細分化し、変化のスピードは猛烈といってもいい。年功序列・終身雇用なる人事制度は音をたてて崩れようとし、人材の流動化が進みつつある。毎年4月の定期採用さえ再検討している企業が少なくない。社員はプロになり、個人として自立することが求められている。結果の平等でなく、機会の平等が成り立つ人事システムに変わりつつあり、個人の個性がより尊重されようとしている。そんな環境下では、従来の会社お仕着せの画一的な教育システムがうまく機能しなくなるのは当然だ。これからのビジネスマンとしては、このような環境変化を先取りして、まず自ら学ぶ姿勢と覚悟を持つことが重要であろう。
当社でも、“商社は人が財産であり、社員教育を重視する”との社長方針のもと、昨年から数回の管理職研修会その他、全社的な集合教育の場を設けてきている。今後もこれは定期的に実施されることだろうが、その前に重要なのは、OJTも含めて教育の基本を自己啓発に求めることである。会社は最低限の枠組みだけを用意し、あとはプロとしての自覚を持った個人がそれを積極的に活用し、自己啓発していく。今回配布された、提案型営業商品についてのファイルは、商品知識を習得し、営業の作戦を練るのに適切な資料になるであろう。各営業部門での活発な研修と自己啓発を期待したいものである。
 ところで、「自己啓発」の“啓発”の語源になったのは、孔子の「論語」にある言葉であり、「啓」と「発」はいずれも導いてわからせるといった意味だ。論語では、理解に行き詰まって腹立たしい感じの状態、あるいは説得に行き詰まってイライラしている状態でないと、人を導いてわからせることが出来ないと言っている。逆に言えば、勉強する気になっている者にちょっとヒントを与えたり手助けをしてやれば教育効果が高まるということだ。こうして“啓発”は、より高い知識や見識、思考をつけるべく勉強、研鑽をする意味となった。
 向上への努力を自分自身でやろうというのが自己啓発である。このためには、理解に行き詰まって腹立たしい状態に、自分自身を追い込み、これを自覚し、克服してゆかねばならない。新しい営業商品知識を覚えて、顧客に提案したり、少し難しい仕事を積極的に引き受けたり、などというのはその第一歩だろう。自己啓発の気風が社内にみなぎれば、個々の能力が高まる上にバイタリティーが組織運営に作用して、素晴らしい企業活動が生まれること請け合いだ。(K)