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道 東山魁夷

「道」 東山魁夷 私の最も敬愛する日本画家である東山魁夷の代表作

ただ、ひたすらにこの画を眺めているだけで心が洗われる。

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1950年(昭25年)絹本着色 一画

134.0×102.0cm 東京国立近代美術館

 

十数年前、一度スケッチしたことがある青森の種差牧場の道を、どうしても描きたくなった魁夷は、昭和25年の夏、再びそこを訪れた。昔の記憶のなかの道と、眼の前にある道との間には、かなりの隔たりがあったが、彼の心のうちに出来上がっていた心象に焦点を絞って、しっとりと潤いのある道を描いた。

「この道を描いている時、これから歩いていく道と思っているうちに、時としては、いままでに辿って来た道として見えている場合もあった。絶望と希望とが織り交ざった道、遍歴の果てでもあり、新しく始まる道でもあった。未来への憧憬の道、また過去への郷愁を誘う道にもなった。しかし、遠くの丘の上の空を少し明るくして、遠くの道が、やや、右下りに画面の外へ消えていくようにすると、これから歩もうとする道という感じが強くなってくるのだった」

一筆一筆、積み上げるような丹念な描き方で仕上げたこの作品によって、魁夷の世界は一層深まっていった。第6回目日展出品作。

 

遥かに続いている野末の道、青森県種差海岸の牧場の道です。この道一本だけで絵にすることを始めは危惧しましたが、こつこつと積み重ねるような描き方で仕上げてゆきました。この作品のモティーフは十数年前の写生からで、灯台や放牧の馬等が見える風景でした。それを道と周囲の草叢だけに省略して、夏の早晨の空気の中に描いたのです。この作品の象徴する世界は私にとっては遍歴の果てでもあり、又、新しく始まる道でもあります。それは絶望と希望の織り交ぜられたものでありました。

「私の作品」「三彩」(臨時増刊)106号 1958年9月 P65

 

悲惨な戦争、次々と死んでいった肉親、たしかに私は未だ死への親愛感にとりつかれてはいる。が、今墓場から甦った者のように、私の眼は生へ向かって見開かれようとしている。(中略)これからは清澄な目で自然を見ることが出来るだろう。腰を落ち着けて制作に全力を注ぐことが出来るだろう。又そうであらねばならない。こう考えた時に、私の眼前におぼろげながら一筋の道が続いているのを見出すのでした。

「わが遍歴の山河」1957年、P167